令和7年度産 夏茶以降の生産対策

今年の一番茶は,前年秋期の高温の影響で再萌芽が多くみられ,11~12月に再整枝をした茶園も多く見られました。12月以降の気温は平年より低く推移し,前年より5~7日程度遅い摘採開始となりました。摘採開始以降,気温は平年より低めに推移したことから,急激な芽伸びは見られず,当初は減収傾向でしたが,気温上昇とともに順調な生産がなされました。このような中,芽格を追っての生産や,被覆期間の延長などの対応がなされ,品質は良好で,市況は前年を上回って推移しました。
 夏茶は一番茶の生育遅れの影響を念頭に置きつつ,良質茶生産を基本に来年の一番茶を見据えた茶園管理に努めましょう。また,依然として経営環境は厳しいですので,家族や工場,地域などで今後の方向性について話し合いを進めることも大切です。

◎夏茶生産の留意点

 夏茶については,一番茶と比較して価格の幅が小さいことから,生産効率を意識することが重要です。特に,天候は燃費効率に大きく影響するため,天気予報をこまめに確認するとともに人材の管理を適切に行い,雨天時の操業日数を抑えられるような計画的な生産に努める。
1 芽格・色沢・水色の三拍子揃った良質茶生産が基本
 (1) 大形や白茎の目立つもの,飴色,黒み,ささ色,水色の赤みなどは評価が低い。
 (2) 欠陥・欠点茶は表1により事前に対策を講じ,万一発生した場合は改善に努める。
 (3) ぬれ葉製造においては,生葉の取り扱い,製造工程の各種設定には注意する。
表1 茶市場取引に大きく影響する上場茶の指摘事項の要因と対策

2 蒸熱工程
 (1) 硬葉原料は,攪拌軸の回転数を速くし打圧を効かせ,茶葉を柔らかくする。
 (2) 夏茶原料は茶葉のpHが一番茶に比べ低い傾向のため,蒸し度を進めると色沢が
     低下(緑色→褐色)しやすい。このため,蒸し度判定用カラースケールで蒸し度と
     色沢をチェックしながら,蒸し度を決定する。

3 葉打~乾燥工程
(1) 外観の赤・黒み,かさつき,締り不足の改善(上乾きさ
せない)のためにしとり(触った感じで茶葉表面が僅か
濡れた状態)を持たせて揉む(図1)。
(2) 湿度の高い夏茶期は乾燥不足となりやすいので,乾燥程
度のチェックを行う。また,過乾燥にも注意する。
(茶をつぶして粉になる,青茎がポキッと折れる,含水率
 4~5%,水分計を活用)
(3)  乾燥機内の温度が90℃以上で過乾燥(含水率3%以下)
となった場合,荒茶色沢が低下するため,設定温度は下
げ風量を増す。

図1 茶葉水分移動の様式図

4 ぬれ葉製造
 (1) 生葉の取り扱い
   ア 付着水が多い場合,脱水機にかけてできるだけ早く蒸す。収葉袋や摘採機などの汚れが混
    入し,水色が赤みや黒みを帯びやすいので,洗浄脱水が望ましい。
   イ ぬれ葉の状態では,嫌気状態になりやすいため,生葉管理装置には詰め過ぎず,連続送風
    時間を長くする。
 (2) 蒸熱工程
   ア 蒸機へ投入する生葉の乾物重量を揃えることで同程度の蒸熱時間が得られる。この場合,
    付着水の分だけ生葉投入量を増やし,蒸気量を増す。
   イ ぬれ葉は蒸熱後の付着水が多く冷えにくい。冷却不良は色沢の低下をおこすので排蒸
    ダンパーを開けたり,冷却機周辺の換気を良くする。
   ウ 撹拌軸回転数は遅くし,汁液の出過ぎを防ぐ。
 (3) 葉打工程
   ア 投入乾物量は少なくなるので,付着水の分だけ葉打機への投入量を多めとする。
   イ 初期乾燥でのグシャ揉みは水色の赤みや黒みの原因となるため,付着水がとれる
    まで最大風量とし,主軸回転数は前工程の10分程度を標準回転数の2割程度少な
    くし,その後主軸回転数,風量を標準に戻す。
 (4) 中揉工程
   ア 外気の影響を最も受けやすい工程であるので,雨の日は風量を増やす。

5 てん茶製造
 県内で導入が進むネット型てん茶機では,てん茶の乾燥不足や
焦げによる品質低下を避けるために初期乾燥を進めつつ,焦げす
ぎない設定が重要(図2)である。初期乾燥(第1ネット乾出
口)の乾燥程度は放射温度計等で測定される茶温で把握可能。
最適な茶温はてん茶ラインの規格(乾燥特性)により異なるの
で,設定条件はラインごとに検討する。

図2 ネット乾の乾燥程度によるてん茶品質の変化

◎茶園管理の留意点

 1 適正施肥・適期防除
 (1) 施肥設計に基づき,摘採後できるだけ早く施肥する。品質・コスト・環境を考慮。
 (2) 石灰窒素施用と土壌反転作業による茶の省力肥培管理技術。
    茶園土壌は,管理作業時の土壌踏圧による通気性・透水性の悪化や,整せん枝の
    繰り返しによる畝間の未分解有機物の堆積により,施肥効率が低下している。
    対策として,石灰窒素等の施用による腐熟促進及び土壌等の混和が有効である。

   石灰窒素は通常年は秋
  肥として,加えて更新年
  では夏肥2回目としても
  効果がある。
  土壌反転機は、隔年の秋
  肥後に実施すると有効
  (図3,4)。

図3 土壌反転機(左右同時に反転・混和)
図4 反転・混和後のうね間土壌

 (3) 病害虫の発生予察情報やほ場観察,地区防除暦に基づき適期に防除する。
   ア チャトゲコナジラミの発生が顕著な場合は「すす」により光合成能力の低下を
    招き,茶樹の生育が妨げられるので注意する。
   【防除のポイント】
    ・ 第1世代ふ化幼虫発生期の5月上中旬はクワシロカイガラムシと同時防除
    ・ 第3世代ふ化幼虫発生期の8月中下旬はウンカ,スリップスと同時防除
    ・ 越冬幼虫となる第4世代幼虫発生期の11月上中旬頃に防除
    ・ 若齢幼虫期散布の効果が高いので,適期散布。シルベストリコバチを有効に活用。
   イ ウンカ,スリップスは,更新園で被害が発生するとその後の生育への影響が大
    きくなる。再生芽の萌芽・生育初期に集中加害されると,芽の生育,樹勢回復を
    著しく阻害する。萌芽から生育初期に残効の長い薬剤などで防除する。また,
    感受性が低下している薬剤があるので選択に注意する。
   ウ 炭疽病は,「やぶきた」など本病に弱い品種は発生に注意する。特に,摘採残
    葉に発生が多いほ場では,二・三番茶の萌芽~1葉期に防除を行う。

   エ てん茶栽培の長期被覆は炭疽病の抑
    制効果があり萌芽~被覆開始(1.5葉
    期頃)の無被覆期間が主な感染時期と
    なる。炭疽病には治療・保護殺菌剤の
    効果が高く,殺虫剤と殺菌剤の混用に
    よる同時防除は萌芽~0.5葉期の散布
    が効果的である。
   オ 網もち病に弱い「あさのか」では,
    三番茶を7月下旬までに摘採すると,
    感染時期の8月下旬~9月上旬まで
    に秋芽が硬化し,無防除でも感染を
    低減できる。また,摘採が8月上旬
    となり,感染時期に秋芽が生育する
    場合,銅剤により発生を抑制する
    (図5)。

図5 二番茶後の整せん枝処理と秋芽生育の関係

 2 更新技術による樹勢回復
 (1) 中切りは一番茶摘採後を基本とし,深刈りは6月15日頃までに行う。
 (2) 深刈り後の最終摘採は,最終摘採時期に1~2節上げて整枝する。
 (3) 樹勢低下茶園や長期間更新をしていない園では,樹勢回復を目的にしつつも翌年
   の減収幅を抑えるために,2カ年かけて段階的に二番茶後深刈りを行う。 
 3 最終摘採時期の遵守(遅れると冬芽形成が遅れ,一番茶は減収する)
 (1)地域の最終摘採時期を基準として,三,四番茶の可否を決める。樹勢も考慮。
 (2)‘ゆたかみどり’など四番茶摘採が難しく秋までの生育期間が長くなる場合
   (例;三番茶が7月10日以降),三番茶を遅らせて上げ摘みするなど調整する。
 (3)最終摘採位置は1節以上は上げて,葉層を確保する(秋芽が伸びる)。 

◎クリーンな「かごしま茶」づくり

 1 異物混入の防止
 (1) 異物に対する消費者の目は厳しい。茶は配合が前提であることから異物混入が発
   生するとロット全体に影響が出るため細心の注意が必要である。
 (2) 茶園から茶工場までの異物混入要因のチェック項目を整備し,防止策を徹底する。
 (3) 降灰時は茶園や工場で洗浄を行い,「降灰茶は作らない」の基本原則を遵守する。
 2 農薬の適正使用の徹底
 (1) 農薬飛散防止対策を講ずる
  ア 隣接ほ場の耕作者と収穫時期,農薬散布時期等の情報を連絡し合うなど連携して
   飛散防止に努める(ほ場に収穫前を示す「お知らせ旗」を掲示する)。
  イ 風向き,風の強弱などに留意し,風の強い日の散布は避ける。
 (2) ラベルをしっかり確認し,農薬の使用基準を厳守する。
 (3) 農薬散布後は防除機やノズル,ホース等散布器具は十分洗浄する。
 (4) 「かごしま茶」の安全性を証明するため,農薬の散布履歴は必ず記帳する。

 

◎経営改善に向けた取組

 1 経営改善の基本的な考え方
 (1) 経営改善の方法として,規模拡大やコスト低減,販売対策(販路拡大,ネット販
   売等)があるが,最近では需要の変化に対応した生産,生産性の向上(海外需要の
   高いてん茶,有機栽培への転換),複合化などがある。これらは経営計画に基づき,
   個人で難しいものは地域で取り組む。
 (2) コスト低減について徹底した見直しを図る。なお,コスト低減は度が過ぎると収
   量,品質にマイナス面も併せ持つので収益悪化を招かないように,費用対効果を考
   慮する。
   ア 変動費(肥料費,農薬費,諸材料費,動力光熱水費など)を下げる。
    土壌分析に基づいた適正施肥,発生予察情報の活用による適期防除,資材の共同
    購入,作業・摘採計画による効率化,管理機・製茶機械の適正な使用等。
   イ 固定費(減価償却費など)を下げる。
    機械・施設の点検整備や丁寧な作業による耐用年数の延長,利用面積の拡大,機
    械・施設の共同利用,複合経営による利用等。
   ウ 10a当たり生産量を上げる。
    「単位当たり生産費」を下げるためには,コスト削減の視点だけでなく,規模拡
     大や単収向上による生産量の増大も有効。但し,技術の高度化が必要。

※ 農作業事故防止や熱中症対策を徹底し,農作業安全・健康管理に留意しましょう。